東京高等裁判所 平成6年(行ケ)152号 判決 1995年12月12日
フランス国92534 ルヴァロア ペレ セデックスリュー アナトール フランス 149番
(旧住所 フランス セーヌ 92200 ヌイリイルユー アンセール 6)
原告
アシェット フィリパキ プレスソシエテ アノニム
(旧商号 フランス エディシオン エパブリカシオン)
同代表者
ベルナール マンフロイ
同訴訟代理人弁護士
関根秀太
岐阜県岐阜市茜部中島1丁目141番地
被告
株式会社 サンクローバー
同代表者代表取締役
奥田良造
同訴訟代理人弁護士
浦田益之
同
武藤壽
同訴訟代理人弁理士
廣江武典
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成4年審判第21831号事件について平成6年2月22日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文1、2項と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、別紙(一)表示の構成からなり、指定商品を第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)布製身回品(他の類に属するものを除く。)寝具類(寝台を除く。)」とする登録第2174456号商標(昭和62年7月10日出願、平成1年9月29日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であるところ、原告は、平成4年11月19日、商標法50条1項に基づいて、本件商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求し(審判請求の登録は平成5年1月8日)、平成4年審判第21831号事件として審理されたが、平成6年2月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ(出訴期間として90日附加)、その謄本は同年3月4日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
被請求人(被告)が提出した乙第2号証の1・2ないし第5号証によれば、被請求人は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標を指定商品中の「スーツ、コート」について使用していたことを認めることができる。
したがって、本件商標の登録は、商標法50条の規定により、取り消すべき限りでない。
3 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点は争う。被告が、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標を指定商品中の「スーツ、コート」について使用していたとの審決の認定は誤りである。
被告は、本件審判請求の登録前3年以内に、本件商標を使用していた旨主張するが、その証拠として提出された書証の内容は、その主張とは齟齬があるもの、また、被告と極めて特殊な関係にある者の作成になるものであるため信憑性を欠くものであり、本件商標が現実に使用されていた事実を証明するものとはいえない。また、証人森健治の証言からは、本件商標がその指定商品に使用されていたという具体的状況を窺い知ることができない。被告は、本件審判請求を受けて事後的に、特定の商品番号の商品を「エルピス」商品と呼ぶこととしたにすぎない。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1及び2は認める。同3は争う。審決の認定に誤りはない。
2 被告は、平成4年8月27日以降に販売した品番15201、15202、16201ないし16206のフォーマルウェアーについて、「ELLpise」と表示したラベル(乙第11号証)を付けて販売している。また、被告は、同年11月11日すぎから、「ELLpise」が表示されている商品カタログ(乙第1号証の2)を取引先に配付している。更に、被告は、同年10月12日柳ケ瀬ビル株式会社から賃借した店舗に「ELLpise」の屋号を付けており、この店舗内の商品の一部に「ELLpise」と表示したラベルを付けて販売している。
以上のとおり、被告は、平成4年8月27日以降、本件商標をその指定商品に使用したものである。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録・証人等目録記載のとおりである。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
2 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
(1) 成立に争いのない乙第1号証の2(商品カタログ)、証人森健治の証言と同証言により真正な成立(乙第12号証の2については原本の存在についても)が認められる乙第6号証、第7号証(いずれも商品入出庫 出納帳)、第10号証の1・2(生産指図書)、第11号証(ラベル)、第12号証の2(売上伝票)、第13号証(仕入伝票)、第14号証の1(納品書)、同号証の2(請求書)、同号証の3(領収書)、第16号証、第17号証(いずれも証明書)、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第8号証、第9号証、第15号証(いずれもエルピス商品推移表)を総合すると、被告は、婦人用既製服の製造販売を業とする会社であること、被告は、平成4年4月ころ、本件商標を使用して、小さいサイズの婦人用フォーマルウエアを売り出すことを決定し、同年5、6月ころ、下請けの縫製会社に生産の発注をしたこと、被告は、同フォーマルウエアに付けるための、「Ellpise」をややデザイン化したもの(別紙(二)参照)を表示したラベル(乙第11号証)と、上記デザイン化したものを記載した、同フォーマルウエアの商品カタログ(乙第1号証の2)の製作を株式会社慶進社に注文したこと、同フォーマルウエアは、同年7月ころから被告に納入されるようになり、被告は、上記ラベルが納入された同年8月26日までの間に、「メトロクイーン」という商標を使用して14着を販売したこと、同年8月26日に上記ラベルが納入されたので、被告は、翌27日以降は、上記ラベルを付けた前記フォーマルウエアを、(株)そごう神戸店、(株)エトワール海渡、(株)横浜そごう、(株)プロルート丸光等に納入販売したこと、また、上記商品カタログは同年11月11日に納入され、被告は、これを取引先の問屋に配付したこと、以上の事実が認められる。
上記認定の事実、及び本件商標と上記「Ellpise」をデザイン化したものとは社会通念上同一のものと認められることからすると、被告は、本件審判請求の登録前3年以内である平成4年8月27日から、本件商標を日本国内においてその指定商品に使用していたものと認めるのが相当である。
(2) 原告は、被告と極めて特殊な関係にある者の作成に係る書証は信憑性を欠くものである旨主張するところ、上記乙第12号証の2、第13号証、第14号証の1ないし3は、株式会社慶進社の作成に係るものであるが、同社はラベルやカタログ等の印刷業者であって、被告と特殊な関係にあるとはいえないし、上記乙各号証の体裁及び証人森健治の証言に照らしても、その記載内容が信憑性に欠けるものとは認められない。乙第16号証及び第17号証は、被告と長年取引関係にある卸販売業者の作成に係るものではあるが、前記認定に供した他の証拠と併せ考えても、その記載内容に信憑性がないものとは認められない。
また、原告は、被告は本件審判請求を受けて事後的に、特定の商品番号の商品を「エルピス」商品と呼ぶこととしたにすぎない旨反論するが、このことを窺わせるに足りる証拠はない。もっとも、前記認定のとおり、被告は、本件商標を使用して、小さなサイズの婦人用フォーマルウエアを売り出すことを決定しておきながら、平成4年7月から8月26日までの間に、「メトロクイーン」という商標を使用して14着を販売しており、この点は若干奇異な感じを免れなくもないが、このことが、前記認定を妨げるものとまでは認め難い。
他に、前記認定を左右するに足りる証拠はない。
(3) したがって、被告は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標を指定商品に使用していた旨の審決の認定に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
3 よって、原告の本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の定めについて、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙
<省略>